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岡山地方裁判所 昭和24年(行)39号 判決 1949年12月12日

原告

村田幸達

被告

岡山県知事

主文

原告の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「被告知事が昭和二十四年八月二十五日原告を岡山県事務吏員の職から罷免した処分を取消す。原告が岡山県事務吏員の職を有することを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

事実

原告は昭和二十一年戦災復興院より岡山県庁に転じ、じ来土木部道路課に勤務し、徹夜して業務を執行したことも珍らしくない程真面目な事務吏員として勤め、業務成績もよく、上司から叱責、注意を受けたこともなく、又進歩的思想の持主であり県庁内民主主義科学者協会グループとして読書会等を行い活動していたものであつて、昭和二十四年八月二十五日当時は同課庶務係長となり、同時に県職員組合の執行委員長の地位についていたところ、被告知事は県職員定数条例制定に伴う第一次整理として同日何等具体的理由を示すことなく原告を罷免した。しかしながら右条例によれば原告所属の知事の事務部局の定数は四千百九十五名と定められ、超過した約二百名の人員が整理せられるものであるが、被告がこれを実施するに当つてはまず自発的退職希望者を募り、之が超過数に達しない場合は老朽者、未経験者、不良職員等に及ぼすべきものであるのに、右該当者が多数あるに拘らずこれを措いて前記の如く成績優良な原告を罷免したことは、(原告所属の土木部長が原告の罷免につき、「理由は定数超過という外は言われぬ。事情は分るだろう。」といつている事実をも綜合して考えると)原告が抱いている思想信条、民主主義科学者協会の一員として行つた進歩的思想活動に基因するものと認めざるを得ない。右の如きはボツタム宣言が思想言論の自由の保障せらるべきことを高唱し、憲法が国民は信条により政治的社会的経済的関係において差別せられないこと、集会、結社、言論、学問の自由及び勤労者の団結権を保障していること、右憲法の精神が労働基準法第三条労働組合法第七条国家公務員法第九十八条第三項等の規定に具現せられていることに照らしてみると憲法違反というべき処分であり且つ前記の如く整理の順位を乱し整理の対象を何人とするも自由であるとするのは健全な常識社会慣行にも反するものであつて、県庁の事務を能率化し県民の便宜を計るのが公僕としての被告知事の義務であることからしても条理に反する処分であつて職権濫用の違法処分というべきものであるから、その取消を求めるため本訴に及んだ。と述べ、被告の本案前の抗弁に対して本件定数条例に基く罷免処分は被告の自由裁量に属する事項ではあるが本件原告に対する罷免は前記の如く憲法の精神に反し条理に反する権利濫用に属するものである。(立証省略)

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として「原告の訴を却下する。」との判決を求め、その理由として本件の如き条例の範囲内での免職処分は被告の自由裁量に属する行政処分であるから裁判所の審理の対象とならないものであると述べ、本案の答弁として、主文同旨の判決を求め、原告の主張事実中原告を罷免したこと、原告の経歴が原告主張のとおりであること(但し原告の成績が優良であつた点及び読書会を組織したことの点は除く)を認め、読書会を行つていたこと、土木部長の言は不知と答え、原告の勤務成績が優良であつたこと、原告罷雇の理由が原告主張の点にあること及び罷免が違憲或いは権利濫用であることを否認し、被告は昭和二十四年八月五日公布の岡山県職員定数条例に基き超過人員を整理し原告が被整理者中に含まれたもので、その思想信条の故にかく首したものではない。と答え、権利濫用は権利行使が相手方に不利益のみを与え、行使者自身に利益なき場合に限るものであり原告のかく首により被告に何等利益のない本件の場合は権利の濫用というを得ない。と附陳した。(立証省略)

理由

まず被告の本件処分は被告の自由裁量の範囲に属し裁判所の審理の対象外であるとの抗弁についてあんずるに、岡山県職員定数条例に基き定数外の職員を整理する為被告の行つた本件罷免処分がいわゆる自由裁量行為であることは右条例の趣旨から認め得るところであるが、原告の本件訴旨は本件処分が違憲であり条理に反する権限濫用の違法処分であると主張しているのであつて、自由裁量行為であつても原告主張の如き場合には権限逸脱の違法処分として取消さるべきものと解するを相当とするから本件は裁判所の審判の権限に属するものであり、被告の右抗弁は採用し難い。

そこで本案に入つて審究するのに、原告が昭和二十一年戦災復興院より岡山県庁に転じじ来土木部道路課の事務吏員として勤務し昭和二十四年八月二十五日当時は同課庶務係長と県職員組合の執行委員長の地位についていたこと、昭和二十四年八月二十五日被告知事が県職員定数条例による整理で原告を罷免したことは当事者間に争がないところである。

原告は本件罷免処分の思想信条又はその進歩的思想活動の故に行つたものであつて憲法の規定の精神に違反し、且つ真面目で成績等優秀な原告を罷免した行為は条理に反する違法なものであると主張するがこれに副う証人沼田作間の証言部分並に原告本人の供述部分はいずれも措信し難く、却つて証人金光稔(道路課長)野瀬隆夫(人事課長)の各証言前記証人沼田の証言の一部を綜合すれば原告の勤務成績が不良であるので罷免したものであり、その進歩的思想活動の故に罷免せられたものでないことを認めるに足りその他原告の全立証をもつてするも原告の主張事実を認めるに足るものがない。しからば原告の本訴請求はその理由なきものとして棄却すべきものである。

そこで、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

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